バッグが重い日にだけ気づく「ちゃんとしすぎる疲れ」小さいポーチに心を詰め込んでいた夜

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悩む女性
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小さなポーチが重くなる夜に、私たちは何を持ち歩いているのか

鞄の中を確かめる女性

5月29日。
昼間は半袖で歩けるくらい暖かいのに、夜になると少しだけ風が湿っています。

梅雨が近いからでしょうか。

コンビニのガラスに映る自分の姿まで、なんとなく水分を含んで見える夜があります。

こういう季節になると、バッグが重くなります。

日焼け止め。折りたたみ傘。冷房避けの薄いカーディガン。目薬。ハンカチ。予備のマスク。モバイルバッテリー。汗拭きシート。小さい香水。

どれも必要そうで、どれも「なくても生きてはいける物」です。

なのに、抜けません。

バッグを持ち上げるたび、「私、こんなに何を警戒してるんだろう」と思います。

でもたぶん、30代の独身女性って、“物”を持ち歩いているようで、“不安の対処法”を持ち歩いているのだと思います。

駅の階段を上がりながら、ふとそんなことを考えました。

この前、帰宅途中の電車で、バッグの中のポーチが閉まらなくなりました。

ファスナーが途中で止まってしまったのです。

中を見ると、リップが三本。目薬が二つ。頭痛薬。絆創膏。ミニサイズのハンドクリーム。使い切り香水。小さいミラー。ヘアゴム。なぜか入っている飴玉。

「旅行ですか?」

ってくらい入っていました。

自分でも少し笑いました。

でも、笑いながら、ちょっとだけ疲れました。

だって、その全部に理由があるのです。

急に頭が痛くなる日があるから。
乾燥したオフィスで唇が切れるから。
靴擦れすると、一日ずっと機嫌が悪くなるから。
誰かに会ったとき、疲れた顔を見せたくないから。

つまりポーチって、“備え”なんですよね。

災害用ではなく、日常崩壊用の。

ポーチの中身は「ちゃんとしていたい」の残骸です

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SNSを見ると、最近は小さいバッグが流行っています。

スマホと財布だけ。
荷物は最小限。
余白のある暮らし。
身軽な女。

そういう写真を見るたび、「すごいな」と思います。

どうやったら、そんなに少ない荷物で外に出られるのでしょうか。

私は無理です。

たぶん途中で不安になります。

リップ忘れた。
もし雨降ったらどうしよう。
急に髪が広がったら。
カフェで隣に元カレがいたら。
取引先で急に名刺交換になったら。
マスク必要になったら。

考え始めると終わりません。

だから荷物が増えます。

でも最近、「荷物が多い人って、不安が多い人なんだな」と単純に片づけられる感じにも違和感があります。

違うんです。

不安というより、“ちゃんとしていたい”なのです。

社会人として。
女性として。
大人として。
感じのいい人として。

そういうものを毎日ギリギリ維持しようとしているから、持ち物が増えていく。

たとえば、トイレでメイクを直す瞬間。

あれって美容のためだけじゃない気がします。

崩れた顔を整えることで、「まだ私は大丈夫」と確認している時間でもあるのです。

仕事で少し嫌なことがあった日。

婚活アプリで返信が来なかった夜。

友達の結婚報告に、ちゃんと「おめでとう」と返したあと。

鏡の前でリップを塗り直すだけで、少しだけ自分を立て直せることがあります。

だからポーチの中身は、化粧品ではありません。

“外で崩れないための小道具”です。

しかも厄介なのが、30代って「もう大人なんだからできるよね」という空気の中を生きる年代なんですよね。

体調管理も。
空気を読むことも。
気遣いも。
身だしなみも。

できて当然。

だから疲れていても、「疲れた顔」を持ち歩けません。

その結果、バッグだけが重くなる。

なんだか少し切ないです。

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使わない物が捨てられないのは、過去の自分を助けた記憶があるからです

断捨離の記事を読むたび、「一年使わなかった物は捨てましょう」と書いてあります。

たしかに理屈は分かります。

でも、ポーチの中身って、そんな単純じゃありません。

頭痛薬には、「あの日」がついています。

午後から急激に頭が痛くなって、コンビニで慌てて買った日の記憶。

絆創膏には、新しい靴でかかとが血だらけになった帰り道がついています。

ミニ香水には、「今日だけはちゃんとして見られたかった日」がついています。

つまり、小物じゃないんです。

全部、“過去の自分を助けた証拠”なんです。

だから捨てにくい。

もしまた同じことが起きたらどうしよう、と思ってしまうからです。

30代になってから、私は「先回り」がすごく増えました。

若い頃はもっと雑でした。

財布だけ持って家を出たり。
終電を逃したり。
勢いだけで人を好きになったり。

でも今は違います。

失敗すると、ちゃんと傷になります。

肌荒れは数日残るし、人間関係の違和感は長引くし、睡眠不足は顔に出ます。

だから予防する。

疲れる前に栄養ドリンク。
雨が降る前に折りたたみ傘。
崩れる前にメイク直し。
嫌われる前に気遣い。

気づけば人生全体が、“未然防止”みたいになっていました。

でも、ときどき思います。

こんなに先回りしてるのに、どうして心だけは突然限界になるんだろうって。

防げないんですよね。

孤独とか。
空虚とか。
理由のない焦りとか。

夜の11時くらいに急に来る、「このままで大丈夫なのかな」が、一番対処法がありません。

しかも困るのが、昼間は普通に働けてしまうことです。

笑えるし、会話もできる。

だから周りにもバレません。

自分でも見失います。

限界じゃないふりが、どんどん上手くなるのです。

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バッグが重い夜は、ちゃんと生きようとしすぎた夜です

帰り道、肩に食い込むバッグの紐を直しながら、「もう少し適当に生きられたらな」と思う日があります。

もっとラフに。
もっと無責任に。
もっと“どうでもいい”を増やして。

でも実際は、明日の天気も気になるし、返信の温度感も気になるし、職場で浮かない服も気になります。

気にしたくて気にしてるわけじゃないのに。

だから、「繊細な人ほど荷物が多い」という言葉を聞いたとき、少しだけ納得しました。

たぶん本当にそうです。

繊細というより、“周りを見すぎる人”なのかもしれません。

冷房が寒い人がいるかも。
急に雨が降るかも。
誰かに不快感を与えるかも。
自分がだらしなく見えるかも。

そういう「かも」を拾い続ける人は、自然と荷物が増えます。

心も。

5月の終わりの夕方って、不思議です。

まだ夏ではないのに、空気の匂いだけ少し夏に近づいている。

駅前の街路樹が湿った風で揺れていて、コンビニの冷房が急に強く感じる。

その空気の中を歩いていると、「今年も半分近く終わるんだ」と急に焦ります。

何か成長したでしょうか。
ちゃんと前に進めているのでしょうか。

婚活も。
仕事も。
貯金も。
美容も。

全部、“まあまあ”のまま時間だけ過ぎていく感じがあります。

だから私たちは、せめて持ち物くらい整えたくなるのかもしれません。

バッグの中が整っていると、「人生までは崩れていない」と思えるから。

少しだけ。

ほんの少しだけですけど。

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いちばん重かったのは、ポーチじゃなく「休んではいけない」という思い込みでした

ある夜、私はポーチの中身を全部テーブルに出しました。

なんとなくです。

整理したかったというより、バッグが重すぎて嫌になったのです。

机の上には、小さい物たちが並びました。

リップ。
頭痛薬。
目薬。
古いレシート。
折れたヘアピン。
空になったミントタブレット。
なぜかずっと入っている映画の半券。

その中に、一枚だけ小さい紙がありました。

レシートの裏でした。

そこに、走り書きでこう書いてありました。

「帰ったら、ちゃんと休む」

最初、誰の字か分かりませんでした。

でも自分の字でした。

たぶん、かなり疲れていた日に書いたのだと思います。

それを見た瞬間、急に泣きそうになりました。

頭痛薬より。
ハンドクリームより。
リップより。

その紙が、一番「今の私」に効いたからです。

私はずっと、“ちゃんとするための道具”ばかり増やしていました。

でも、本当に必要だったのは、「休んでいい」と許可を出すことだったのです。

頭痛薬を飲む前に寝ればよかった夜がありました。

愛想よく笑う前に、「今日は無理」と言えばよかった日もありました。

誰かに嫌われない工夫ばかりして、自分を疲れさせていました。

ポーチが重かったんじゃない。

「ちゃんとし続けなきゃ」が重かったのです。

その夜、私はポーチの中身を半分だけ減らしました。

でも全部は捨てませんでした。

だって私は明日もたぶん心配性だし、急に身軽な人間にはなれません。

それでいい気がしました。

無理に変わらなくても。

ただ、「今日は休んでいい」と自分に言えるだけで、人って少し軽くなるんですね。

次の日、バッグを持ち上げた瞬間、ほんの少しだけ肩が楽でした。

たぶん荷物の重さは、ほとんど変わっていません。

変わったのは、「ちゃんとしてない自分」を許せる量でした。

もし今夜、あなたのバッグが重いなら。

それは、だらしないからじゃありません。

ちゃんと生きようとしすぎた証拠です。

だから今日は、少しくらい雑で大丈夫です。

コンビニごはんでも。
返信を後回しにしても。
洗濯物を畳まなくても。

梅雨前の湿った夜くらい、自分まで無理に乾かさなくていいのです。

ちゃんと休む。

たぶん、大人になるって、その練習なのかもしれません。

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