マッチングアプリを閉じた夜だけリップを塗り直す理由に、自分でも泣きそうになった

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マッチングアプリを閉じた夜、なぜかリップだけ塗り直したくなる私へ

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誰にも会わない夜ほど、顔を整えたくなる不思議

5月31日。暦の上では初夏に入り、窓を少し開けると、夜風に湿気が混じる季節になりました。昼間は汗ばむのに、夜になると急に心細くなるような、そんな季節です。

仕事から帰って、バッグを置いて、部屋着に着替えて、スマホを開きます。マッチングアプリの通知がひとつ。開いてみると、悪い人ではなさそうです。プロフィールもちゃんとしていて、写真も自然で、メッセージも丁寧です。

でも、なぜでしょう。

返事を打とうとして、指が止まります。

「はじめまして」
「よろしくお願いします」
「休日は何をしていますか?」

何度も見た言葉なのに、今日だけ妙に重たく感じるのです。恋愛をしたい気持ちはあります。結婚を諦めたわけでもありません。誰かとごはんに行って、くだらない話で笑って、帰り道に少しだけ名残惜しくなるような時間に憧れています。

それなのに、アプリを開いた瞬間、心の中で小さなブレーカーが落ちる日があります。

そんな夜、私はなぜか洗面台の前に立ちます。もう誰にも会わないのに、リップを塗り直します。ファンデーションは落ちかけています。髪も少し乱れています。部屋着も正直、誰にも見せられません。

それでもリップだけ塗ると、ほんの少しだけ「私はまだ終わっていない」と思えるのです。

これは美容の話のようで、たぶん心の話です。

30代になると、自分磨きという言葉が少し疲れて聞こえる日があります。昔は前向きな言葉だったはずなのに、今はどこか「もっと頑張れ」と言われているように感じることがあります。

肌を整える。
髪を整える。
体型を整える。
服を整える。
会話力を整える。
人生設計を整える。

整えることばかり求められて、肝心の自分の気持ちが、洗面台の隅に置き忘れられているような気がするのです。

リップを塗る私も、別に誰かに選ばれたいだけではありません。むしろその逆で、誰にも選ばれなかったように感じた夜に、自分だけは自分を雑に扱いたくないのかもしれません。

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婚活疲れは、恋愛が嫌になったのではなく「自分を説明すること」に疲れたのです

マッチングアプリで疲れる理由は、相手が悪いからだけではありません。もちろん、急に連絡が途切れたり、会話が雑だったり、こちらの気持ちを置いてけぼりにする人に出会うこともあります。

でも、本当に疲れるのは、何度も何度も自分を最初から説明し直すことなのかもしれません。

仕事は何をしているのか。
休みの日は何をしているのか。
結婚願望はあるのか。
子どもは欲しいのか。
どこに住んでいるのか。
料理はするのか。
どんな人がタイプなのか。

もちろん、大切な質問です。相性を見るためには必要なことです。けれど、毎回それを答えているうちに、自分が人間ではなく、条件の一覧表になったような気持ちになる夜があります。

私はスペック表ではありません。

ちゃんと眠れなかった朝もあります。コンビニの袋を持ったまま玄関で座り込む夜もあります。洗濯物を畳めない日もあります。人に優しくしたあと、家で急に無言になる日もあります。

でもアプリの中では、そんな自分を最初から見せるわけにはいきません。

明るく、感じよく、重すぎず、軽すぎず。ほどよく前向きで、ほどよく家庭的で、ほどよく自立していて、ほどよく可愛げもある人。

その「ほどよく」の調整で、心が静かに摩耗していくのです。

だから、誰にも会わない夜のリップは、婚活用のメイクではありません。戦闘服でもありません。誰かに好かれるための色でもありません。

「今日はよく頑張ったね」と、自分に押す小さな確認印のようなものです。

リップ一本で人生は変わりません。そんな都合のいい話ではありません。けれど、唇に色が戻ると、少しだけ言葉も戻ってくる気がします。

「私はまだ、誰かに雑に扱われるために生きているわけじゃない」
「私はまだ、ちゃんと私の味方でいたい」
「今日は返事をしなくてもいい」
「でも、明日また笑えたらいい」

そんな声が、鏡の奥から聞こえる気がするのです。

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本当に欲しかったのは、男性からの返信ではなく「今日の私を見捨てない習慣」でした

ある夜、私はアプリを開いたまま、また返信できずにいました。画面には、感じのよさそうな男性からのメッセージが残っていました。

「今度、よかったらごはん行きませんか?」

普通なら喜ぶ場面です。なのに私は、なぜか泣きそうになりました。理由はわかりません。相手が嫌だったわけではありません。むしろ、ちゃんと誘ってくれているのに、心が動かない自分に申し訳なくなったのです。

私は恋愛がしたいのか。
結婚がしたいのか。
安心したいのか。
誰かに認められたいのか。
それとも、ただ疲れているだけなのか。

答えが出ないまま、私は洗面台に向かいました。そして、いつものようにリップを塗ろうとしました。

そのとき、ふと気づきました。

私は毎晩、誰かに会う準備をしていたのではありませんでした。

私は毎晩、自分に会い直していたのです。

昼間の私は、職場用の顔をしています。感じのいい人、ちゃんとしている人、空気を読む人、迷惑をかけない人。そんな顔をして、なんとか一日を乗り切っています。

でも夜の私は、もう少し情けないです。返信ひとつに迷い、将来に焦り、肌の調子に落ち込み、同級生の結婚報告に少しだけ胸がざわつきます。

そんな私に、リップを塗っていたのです。

「その顔でも大丈夫」
「その迷い方でも大丈夫」
「今日は誰かに選ばれなくても、あなたは消えない」

そう言ってあげるために。

そして、ここから少しだけ、読者を裏切る話をします。

私はその夜、勇気を出して男性に返信したわけではありません。デートに行って運命の恋が始まったわけでもありません。ドラマみたいに、鏡の前で自信を取り戻して人生が動き出したわけでもありません。

私は、アプリを退会しました。

びっくりするほど静かに、退会しました。

でもそれは、恋愛を諦めたからではありません。結婚を投げ出したからでもありません。

私はその日、初めて「今の私は、出会いより先に休息が必要だ」と認めたのです。

そして、リップを塗ったまま、温かいお茶を飲みました。誰にも送らないメッセージをメモアプリに書きました。

「私は、誰かに見つけてもらう前に、私が私を見つけてあげたい」

それを書いた瞬間、少しだけ呼吸が深くなりました。

翌朝、何かが劇的に変わったわけではありません。仕事はあります。洗濯物もあります。将来の不安もあります。肌も急に発光しません。

でも、洗面台に置いたリップが、昨日までとは違って見えました。

それは婚活の武器ではなく、私の小さな避難所でした。

30代の恋愛は、頑張ればうまくいくとは限りません。美容も、努力したぶんだけ必ず報われるとは限りません。人生は、思ったより不公平で、思ったより地味で、思ったより誰も褒めてくれません。

だからこそ、誰にも会わない夜にリップを塗ることくらい、笑わずに大事にしていいと思うのです。

誰かのために可愛くなる日があってもいいです。
でも、自分を見捨てないために色を足す夜があってもいいです。

マッチングアプリを閉じた夜。
返信できなかった夜。
自分磨きという言葉に疲れた夜。

そんな夜のリップは、恋の始まりではないかもしれません。

でも、私が私に戻るための、ものすごく小さくて、ものすごく大切な合図なのだと思います。

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