何も失敗していないはずなのに眠れない夜、「このままでいいのかな」が突然始まる理由

深夜2時。
カーテンの隙間から、街灯のオレンジ色が細く床に落ちている時間。
エアコンの送風音だけが部屋に残っていて、冷蔵庫のモーター音が、さっきから規則正しく生活している。
ベッドに入ってから、もう1時間以上経つのに、眠気はどこかへ行ったまま。
スマホを置いたはずなのに、無意識に手が伸びて、また画面をつけてしまう。
誰かのストーリー、どうでもいいニュース、買う予定もない服の広告。
その途中で、急に来た。
前触れもなく、胸の奥から。
「私、このままでいいのかな?」
深夜2時にしか現れない不安の正体
今日が特別にひどい一日だったわけじゃない。
仕事も、最低限はこなした。
ミスはあったけど、致命的ではない。
夕飯もちゃんと食べたし、洗濯も回した。
「ちゃんと生活してる側」の一日だったと思う。
なのに、深夜になると、昼間には存在しなかった疑問が、輪郭を持って現れる。
それも、答えを求めている感じじゃなくて、ただ居座る感じで。
「この仕事、何年続けるつもりなんだろう」
「貯金、足りてる…よね?」
「この生活、10年後も続いてるのかな」
どれも、今すぐ解決しなくていい質問。
なのに、深夜2時の私は、それを“今ここで決着をつけなきゃいけない問題”みたいに感じてしまう。
昼間の私は、たぶんもう少し合理的だ。
「考えても仕方ないよね」とか
「また今度でいいや」とか
ちゃんと逃げ道を用意できる。
でも、夜の私は違う。
逃げ道が見えない。
というより、逃げる資格がない気がしてくる。
今日、何かを成し遂げたわけでもない。
誰かに強く必要とされたわけでもない。
「今日の私」を肯定できる材料が少なすぎて、
その隙間に、不安がすっと入り込んでくる。
それが、「このままでいいのかな?」という形をしているだけ。
うまくいかなかったことを、夜は全部集めてくる

思い返せば、今日も小さな「うまくいかなかったこと」は、ちゃんとあった。
会議で、言いたいことを半分しか言えなかった。
LINEの返信、少しそっけなかったかもしれない。
夕方、鏡に映った自分の顔が、思ったより疲れて見えた。
昼間は、それを一つずつ処理していたはずなのに、
深夜になると、なぜか全部が同時に再生される。
しかも、編集されて。
失敗は強調されて、
うまくいったことはカットされる。
「またちゃんとできなかった」
「どうせ私なんて」
「この積み重ねが、今の自分なんだろうな」
誰かに言われたわけでもないのに、
自分で自分を追い詰める言葉だけは、驚くほどスムーズに出てくる。
冷静に考えたら、
今日の失敗と、人生の方向性は、たぶん直接つながっていない。
でも、深夜2時の私は、
「今日の出来=私の価値」
みたいな、極端な計算式を平気で採用する。
そして、その計算結果に、ひとりで落ち込む。
みんなが進んでいるように見える夜
深夜にスマホを見るのをやめられない理由は、
たぶん、現実よりも“他人の人生”の方が分かりやすいから。
昇進した話。
結婚の報告。
新しい挑戦を始めました、という投稿。
本当は、その裏に悩みや不安があることも知っている。
それでも、切り取られた一瞬だけを見ると、
「みんな、ちゃんと進んでるな」と感じてしまう。
私は、今日、何を進めただろう。
部屋は昨日と同じ。
生活も昨日と同じ。
将来に向かって、何センチ前に進んだのか、測れない。
そんな夜に、「このままでいいのかな?」は、
問いというより、ため息に近い。
答えが欲しいわけじゃない。
ただ、「今の私」を仮置きできる場所が欲しいだけなのかもしれない。
「変わらなきゃ」と思うほど、動けなくなる
不思議なことに、
「このままじゃダメだ」と思えば思うほど、
具体的な行動は浮かばなくなる。
転職?
引っ越し?
新しい勉強?
どれも正解っぽい。
でも、どれも、今の私には重たい。
「変わりたい」と「変わるのが怖い」が、
同じ大きさで並んで、動きを止める。
だから私は、
何も決めないまま、
布団の中で天井を見つめている。
深夜2時の不安は、
行動を促すエネルギーじゃなくて、
“立ち止まっている自分”を照らすライトみたいなものなのかもしれない。
眩しいけど、
進む方向までは教えてくれない。
答えを出さなくてもいい夜があってもいい

「このままでいいのかな?」
この問いに、完璧な答えを出せている人なんて、
きっとほとんどいない。
むしろ、
この問いが浮かぶということ自体、
何も考えていないわけじゃない証拠でもある。
立ち止まって、違和感を感じて、
それをちゃんと自覚している。
それだけで、今日は十分なのかもしれない。
変わるかどうかは、
朝になってから考えてもいい。
今日じゃなくてもいい。
深夜2時は、
答えを出す時間じゃなくて、
「揺れている自分」をそのまま置いておく時間。
カーテンの隙間の光が、少しだけ薄くなった気がして、
私はスマホを伏せた。
答えは出ないままだけど、
それでも、目を閉じる準備はできた気がする。






