うまくいかなかった夜に選ぶスキンケア|N organic Basicでゆらぎと毛穴不安を静かに整える時間

帰り道のコンビニの自動ドアが、私だけちょっと遅れて開いた気がした。
夜の風はまだ冷たくて、マフラーの中で息が湿っていく。レジ横のホットスナックの匂いに負けそうになりながら、結局、買ったのは小さなヨーグルトと無糖の炭酸水。今日は、失敗した日だから。せめて「甘やかし方」だけでも整えておきたかった。
失敗って、派手じゃない。
上司に怒鳴られたわけでも、誰かに嫌われたわけでもない。なのに胸の奥に、薄い紙みたいな違和感が何枚も重なっていく。
昼休み、送ったはずのメールに添付が入っていなかった。
「すみません、再送します」の一文は、キーボードの上を滑っていくみたいに軽かったのに、そのあと残ったのは、取り返しのつかないことをしたような重さだった。相手は丁寧に「大丈夫ですよ」と返してくれた。そういう優しさが、いちばん刺さる日がある。
それに、今日は婚活アプリのメッセージも、返事を打っては消して、結局なにも送れなかった。
“忙しいのでまた” とか “体調が” とか、理由を作るほど、私は自分のことが信じられなくなる。
会う前から、うまくいかなかった時の自分の顔を想像してしまって、先に負けてしまう。
家に着いて、玄関の電気をつけた瞬間、部屋の散らかり具合に現実を見せられた。
洗っていないカップ、開けたままの郵便物、椅子に投げたコート。
「ちゃんとした生活」をしている人の部屋じゃない。だけど、片づける気力もない。
こういうとき、私は肌だけでも“整っている側”に寄せたくなる。変な話だけど。
うまくいかなかった日の、洗面台の前で

洗面台の鏡に映る顔は、疲れているというより、やる気の電池が一段階だけ減っている感じ。
目元の影、鼻まわりのザラつき、頬の赤み。どれも、致命的じゃないのに、今日は全部が「私のだめなところ」に見える。
いつものクレンジングをして、洗顔して、タオルで押さえる。
ここまでは儀式みたいにできる。問題は、その先。
何も考えたくない日は、スキンケアですら面倒で、化粧水をつけながらぼんやりスマホを見て、気づいたら乾いている。
そういう“雑さ”のあと、肌が荒れたら、また自分を責める。
今日の私は、そのループに入りたくなくて、N organic Basic のバランシング ローションを手に取った。
「2プッシュして手に広げて温めて、顔につける前に深呼吸を楽しむ」っていう使い方が、ちょっとだけ、生活の姿勢まで正してくる。
深呼吸なんて、誰に命令されたくもないのに。なのに今日は、言われた通りにしてみた。
息を吸うと、柑橘の香りがふわっと立って、ほんの少しだけ“今”に戻ってくる。
香りは5種の精油をブレンドしたスウィートシトラスで、日常をリラックスの時間にしたいという想いから作られているらしい。
香りに「想い」がある、って言葉は、たいてい広告っぽくて苦手なのに、今日は素直に受け取ってしまった。
むしろ、想いがない日なんてないのかもしれない。私の一日にも。
ローションは、ぱしゃっとした軽さの中に、ちゃんと“水分が入っていく感じ”がある。
成分表を見ると、ビターオレンジ果皮エキス(保湿)やキハダ樹皮エキス(整肌)が、シリーズ共通の要として出てくる。
それから、潤いの通り道“アクアポリン”にアプローチするとされるグリセリルグルコシドも配合、って書かれている。
正直、アクアポリンなんて、普段の私には縁のない言葉だ。
でも、「潤いの通り道」って響きだけで、今日は救われる。
通り道があるなら、私の気持ちにも、どこか抜け道がある気がするから。
ローションをなじませたあと、バランシング エッセンスミルクを1プッシュ。
“軽やかさの中にクリームレベルの濃密なうるおい”という説明は、盛ってるでしょ、と思いつつ、肌にのせると不思議と納得してしまう。
「潤うけどベタつかない」って、毎回みんな言うけど、これは確かに、膜っぽさより“溶け込む”感じが強い。
乾燥しやすいところには、1〜2プッシュ重ね付けがおすすめ、とある。
私は今日は頬に少しだけ足した。
頬って、私の感情が最初に出る場所だから。赤くなったり、熱を持ったり、乾いたり。
頬に“足す”行為が、なんだか、自分に許可を出すみたいだった。
それでも、まだ「何か足りない」と思う自分がいて、VCエッセンスを引き出しから出した。
コンディショニング VCエッセンスは、10円玉大を手に取って、毛穴が気になる部分に重ね付けがおすすめ、って書いてある。
私は鼻の横と、顎に少し。
肌のことは、努力すれば返ってくる、って信じたい。
仕事も恋も、努力が報われない日があるのに、肌だけは、たまにちゃんと応えてくれる。
その“たまに”を、私は手放したくない。
成分を見ると、3-グリセリルアスコルビン酸、ビスグリセリルアスコルビン酸、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル…って、ビタミンC由来の名前が並んでいる。
さらに、パルミチン酸レチノール(レチノール誘導体)も入っている。
“攻め”っぽい成分名に見えるのに、香りはローションやミルクと同じスウィートシトラスで、なぜか安心する。
私はたぶん、「効く」と「怖い」がセットになっているタイプだ。
変化はほしい。でも刺激はこわい。
それって、恋愛の話みたいでもある。
肌を整えたかったのか、言い訳を整えたかったのか

スキンケアが終わって、鏡を見る。
劇的に変わったわけじゃない。
でも、肌の表面が少しだけ落ち着くと、頭の中の音も少しだけ静かになる。
“外的刺激によるゆらぎづらい肌へ”という説明を読んだとき、私は「外的刺激」って言葉に過敏に反応した。
肌の話なのに、心の話みたいで。
外的刺激。
今日の私にとってそれは、添付忘れのメールでも、返信できなかったメッセージでも、電車で隣に座った人の香水でも、SNSのタイムラインでも、全部だった。
「こんなことで傷つく自分」が、恥ずかしかった。
でも、傷つかないふりをする方が、もっと疲れる。
N organic Basic のローションもミルクも、肌のバリア機能をサポートして、うるおいが巡る肌のメカニズムに着目している、って説明がある。
それを読んで、私は勝手に、自分にも当てはめた。
バリア機能が弱ってるのは肌だけじゃなくて、私の境界線もだ。
誰の言葉を受け取って、どこで跳ね返すか。
その調整が下手な日は、全部が入ってきて、全部に揺れる。
だから私は、スキンケアをしながら「これは整えるため」と言い聞かせた。
でも本当は、整えたかったのは、言い訳の方かもしれない。
「今日の私はダメだったけど、ちゃんとケアはした」
そう言える材料を、私は自分のために集めている。
ずるい。けど、そういうずるさでしか、翌日を迎えられない夜もある。
それに、香りって不思議だ。
ローションもミルクも、レモン果皮油やマンダリンオレンジ果皮油、ビターオレンジ花油などの精油が入っている。
同じ香りに包まれていると、バラバラだった一日の断片が、少しだけ一つの物語にまとまる。
“今日”が、ただの失敗の集合体じゃなくなる。
私の中で、「生活」が「人生」になる瞬間って、案外こういうところなのかもしれない。
ただ、ここでまた小さな違和感が出てくる。
スキンケアで落ち着いた私は、結局、何を落ち着かせたんだろう。
肌の表面? 心? それとも、問題の先延ばし?
鏡の中の私は、少しだけ“まとも”に見えた。
でも、まともって何だろう。
仕事ができること? 恋人がいること? 部屋が片づいていること?
そういう条件をクリアしたら、私は安心できるんだろうか。
たぶん、違う。
安心って、条件じゃなくて、瞬間の積み重ねだ。
今日みたいな夜に、2プッシュして深呼吸する瞬間。
1プッシュを温めて、肌にのせる瞬間。
10円玉大を指先に広げて、気になるところにそっと置く瞬間。
その一つひとつが、私の“戻り道”になっている。
でもね、戻った先が「正解」じゃなくてもいい、って思える日と、思えない日がある。
今日は、まだ思えない日の方だった。
だからこそ、こうやって書いている。
答えを出さないまま、揺れを置いておくために。
明日、今日の失敗は、たぶん小さくなる。
添付忘れは、誰かが笑い話にしてくれるかもしれない。
返せなかったメッセージは、なかったことになるかもしれない。
でも、私の中の“薄い紙みたいな違和感”は、まだしばらく残る気がする。
それをゼロにする方法を、私は知らない。
ただ、今夜の肌が、ほんの少し落ち着いたのは事実で。
それだけで、「全部終わり」じゃないって思える。
終わらせないために、私はローションを2プッシュする。
終わらせないために、ミルクを1プッシュする。
終わらせないために、VCエッセンスを10円玉大、手のひらにのせる。
今日の私がうまくいかなかったことは変わらない。
でも、うまくいかなかった私を、手放さない夜もあっていい。
結論はまだ出ないまま、香りだけが、部屋に残っている。






